それからちょうど十日ばかりたって、夕方、わたくしが役所から帰って両手でカフスをはずしていましたら、いきなりあのファゼーロが、戸口から顔を出しました。そしてわたくしが、まだびっくりしているうちに、
「とうとう来たよ、今晩は。」と云いました。
「ああ、先頃はありがとう。地図はちゃんと仕度しておいたよ。この前の音は今でもするの。」
「するとも、昨夜なんかとてもひどいんだ。今夜はもうぼくどうしても探そうとおもって羊飼のミーロと二人で出て来たんだ。」
「うちの方は大丈夫かい。」
「うん。」ファゼーロは何だか少しあいまいに返事しました。
「きみの旦那はなかなか恐い人だねえ、何て云うんだ。」
「テーモだよ。」
「テーモ、やっぱし何だか聞いたような名だなあ。」
「聞いたかも知れない。あちこち役所へ果物だの野菜だの納めているんだから。」
「そうかねえ。とにかく地図はこれだよ。」
わたくしは戸口に買って置いた地図をひろげました。
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